学びの7か条

学びの7か条
―自ら学び続ける力を身につけるために―

東京工業大学の学生には,視野の広い人間になってもらいたいと考えています。それは,自らの専門分野やその隣接領域の卓越した理工系の知識だけではなく,幅広い科学技術への関心,社会を知り自らを深める教養,コミュニケーション能力を併せ持った人間になってもらいたいということです。

近年の技術革新や世界的動向を見れば明らかなように,今後も私たちの予測をはるかに超えた新たな技術,事象が絶え間なく生まれていくことでしょう。習い,覚え,蓄えてきた考え方だけでは太刀打ちできないかもしれません。そこで大切なのは,常に学び続ける姿勢と行動です。自立的学習者としての心構えや能力が求められています。それらを身につける準備はできていますか。

大学入学までの学びは,受動的で,誰かに言われたとおりにしていればよかったかもしれません。しかし,社会に出れば,自分で考え,学ばなければならないのです。大学では,その準備をし,自ら学ぶ方法や,自分の特性を知るということもできるのです。

あなたの代わりはできませんが,あなたが主体的に考え,活路を見出そうとしている限り,大学は全力でサポートします。その思いを込めて,皆さんが大学で学ぶ上でのヒントとなる「学びの7か条」を提案します。東工大は,「学びの気概」を全力で育てます。

1.いろいろな教員と積極的に接する

授業をしている教員を遠くから眺めているだけでは面白くありません。専門家である大学教員と話してみる機会をもちましょう。手始めは,授業終了直後に質問してみることです。研究室を訪問すれば,教員の豊かな学識や人格へ更に接近できます。授業や専門に関する話題だけでなく,教員が辿ってきたキャリアなどを尋ねてみることも大切です。また,100年前の教員や研究者と出会うために図書館へ行くことも考えられます。海外での動向を知るウェブサイトも有効です。

そんなあなたたちを教員は待っています。学問の楽しさや厳しさ,人生のおかしさなどを,きっと,優しく語りかけてくれるはずです。学びを喚起するドラマチックな出会いが起きるキャンパスづくりに,大学は努めています。

2.学生間の協力関係を築く

1人で行なえば早く終わることは確かにあるかもしれません。そんな個人の高い能力を結集すれば,より困難な課題とも向き合えることでしょう。社会で見られる良い仕事がそうであるように,個性ある仲間たちとチームになって協調しあうことで,質の高い学習が生まれます。個人に閉じることなく,互いに切磋琢磨することが大切です。自身の考えを表現し,仲間と対話することで,アイディアは更に研がれ究められていくことでしょう。

協力して学ぶことの重要性を教員は認めています。学生同士で探究する課題を提示し,活動を促し,鋭いフィードバックを通じて,学びの次元を高めてもくれるはずです。そのような学習が促進される環境や制度を大学は実現しています。

3.自立的に学習する

学習は聞くだけではありません。講義で教員が話すことを漠然と聞いたり,覚えたことを記述して試験を乗り切ったりすることに多くの学びはないでしょう。授業では,その内容と自身の思考とを討論させるように聴き合うことが大切です。クラスの議論でアイディアを膨らませたり,異なる考えから思いもよらない結果が導かれたりするグループワークは,自身の学びをモニターするのにも有効です。知識,スキル,態度がバラバラでなく関わり合っているのが,学習であると知っておきましょう。

たくさんのことを知っているだけでなく,実際にやってみせることができれば,学習の成果は上がっていると教員は評価します。そのような学習成果を実現するための,学習法や教授法の習得を大学は支援しています。

4.学習の進捗を常に把握する

どこまで到達できたかを知ることは,これから達成していくことを知ることでもあります。自身の学習状況について一歩下がって見つめ直す習慣を身につけましょう。何を,どのようにして学んだのかという振り返りによって,強みや弱みも明確になり,今後の学習を計画することに役立ちます。周囲が提供してくれる場合もあります。正確な進捗を捉えるために,目標や学習方法を常に確認して,時には修正することも大切です。自身の活動を評価できるようになりましょう。

そのような真摯な態度から生まれる提案を受け入れる準備が教員にあります。授業の改善や,自己評価する学生の手助けなどです。大学には,皆さんが自身の学びに関する足跡を記録できる用意があります。

5.授業外の学習を計画的に行う

授業での学習が,その時限から教室で始まるわけではありません。事前学習が前提となった授業では,授業前こそが本番といえるでしょう。複数の科目を履修している場合には,たくさんの本番を成し遂げていかねばなりません。時間は限られています。効果的な時間の管理を行い,効率の良い学習法を展開する必要があります。そうすることで,授業を終えての事後学習や,課外活動などが充実したものになるでしょう。

そのような事前・事後の学習内容をシラバスで教員は示しています。実際の授業での学習状況を観察して,より改善された授業を即座に実行することもあります。教室外で行なわれる授業の事前や事後学習を促すシステムを大学は整えています。

6.高い志をもって行動する

自分自身に対して,高く大きな期待を寄せましょう。学習することで,現在からは想像すらできない成長があることでしょう。入学時の目標を守り通すことも大切ですが,新しく改めることに戸惑うこともありません。大学には,自身を成長させる機会が溢れています。成長のスピードは人それぞれですから,そこに他人との比較が入り込む余地はないでしょう。

あなたが未だ気付いていない自身の可能性に教員は期待しています。そのような教員は,階段を上るように,まずは身近な目標を提示してくれるはずです。大学は,皆さんの成長を後押しできる制度や組織体制を常に見直しています。

7.それぞれの個性と様々な学びを大切にする

偏見や先入観は,活動を鈍らせ,自由な思考を妨げるものです。学生や教職員,キャンパスに集う人たちは,様々な意見や価値観をもっていることでしょう。学びやそのスタイルも人それぞれです。自身の個性を安心して説明できることが大切です。新たな発見や,視野の広がりは,相互に尊重し合うことを通じてこそ顕在化するでしょう。それらを取り込んで,これまでになかった発想ができるようになりましょう。

教員は,多様性を大切にすることについて伝えています。文化や世代の交流が,学習効果を高めることを知っているのです。障壁のない,開かれた場であることを大学は重視しています。